確定拠出年金『実務教室』 

確定拠出年金の実務をこなしてしていくうえで、これは…どう対応すれば(考えれば)よいのだろうか…?と思うことは少なくないと思います。


運営管理機関に問い合わせするのも解決策の1つですが、確定拠出年金法を踏まえたその「概要」を理解しておくことも必要ではないでしょうか?


J-401kオフィスのホームページでは、シリーズで確定拠出年金『実務教室』を掲載していきます。

 

No.4 脱退一時金

脱退一時金は、企業型確定拠出年金の加入者が、中途退職等で加入者資格を喪失した際、一定の要件を満たせば、個人別管理資産の全額を現金で受給できる仕組みです。この脱退一時金について法令面から少し考察してみるのが、今回の実務教室です。
 
≪脱退一時金は例外措置≫
 
そもそも、確定拠出年金は法第1条で「国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与する」ことを目的としていることを明記しています。

すなわち、高齢期の所得確保を支援し、公的年金の補完を目的としていることから、拠出時・運用時・給付時に税メリットを認めているのであって、原則として高齢期(60歳)までは現金では受給できない制度としています。
 
このため、脱退一時金は個人別管理資産が少額にもかかわらず公務員や専業主婦(主夫)になるなど、法令上で掛金の追加拠出が認められない状態が続いた場合、毎年事務費等を控除され続け、結果として60歳到達時に資産が無くなってしまうようなことを避けるため、一定の(厳しい)要件を満たすことを前提として、あくまでも【例外的】に認められる仕組みとなっています。
 
≪脱退一時金が理解されていない理由≫
 
しかし、事業主が確定拠出年金を導入した経緯の多くは【適格退職年金制度廃止に伴う代替手段】【退職給付債務の軽減】など、年金というよりはむしろ退職金としての性質が高い制度から移行です。そのため、事業主からみると「退職金の一部」であり、法からみると「年金の一部」であるという意識の相違が生じます。
そして、脱退一時金(退職金)として現金が支給されないので、事業主は「使い勝手が良くない」と感じ、加入者からみると「今までは中途退職でも現金で貰えたのになぜ?」と、はてなマークがつく状況になっていると感じます。
 
実際、確定拠出年金関連のインターネット検索状況を調査してみると「確定拠出年金脱退一時金」(同義語含む)をキーワードとして検索いる人がとても多いのです。なお、最近では「現金で支給されると使って(なくなって)しまうから、60歳まで現金支給されないほうがよい」と考える加入者も出てきましたが、まだまだ加入者の脱退一時金に対する理解度は低いと感じます。
 
≪脱退一時金にも企業型と個人型がある≫
 
では、この『脱退一時金』について、法的側面から改めておさらいしてみますと
①企業型における脱退一時金
②個人型における脱退一時金(平成26年1月1日より一部緩和) ←古い?
の2つに大別されます。
脱退一時金の要件は、資格を喪失した加入者が<次にどのような立場になるか>によって対処が異なるため、実務担当者は「どう説明すればよいのか?」と迷い、対象となる加入者は「いつ手続きをすればよいのか?」と困惑する場合が多いと想定されるので、以下の法的根拠を参考に実務を進めてみてはいかがでしょう。
 
1.企業型における脱退一時金…資産は15,000円以下か?
企業型年金規約で定められる脱退一時金です。要件は資格喪失後の「個人別管理資産が15,000円以下」である事です。個人別管理資産が15,000円以下とは、資格喪失時に未拠出の月額掛金があればその掛金を加算し、未移換の資産(一時金の分割移換額等)があればその金額を加算して、事業主返還等があればその金額を控除した額です。
 
金額の判定時期は脱退一時金を請求した日の属する月の前月末時点での時価資産で判定されます。
 
企業型における脱退一時金は、次にどのような立場になるかは関係なく、上記で算出した額と時期において15,000円以下であれば、企業型運営管理機関(退職時まで加入してきた運営管理機関)に対して、脱退一時金の請求手続きを行う事で現金受給が可能となります。
 
また、対象となる加入者が転職で、転職先の会社が企業型年金を実施していれば、加入者の希望により資産を移換することが可能ですので、必ずしも脱退一時金の請求手続きを行う必要はありません(移換の手続きは必要です)。企業型における脱退一時金は、要件を満たす加入者が希望(請求)すれば受給できる制度です。なお、請求は資格喪失後(資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して)、6か月以内に行う必要があります。
 
2.個人型における脱退一時金…個人型の加入者(掛金をかけれます)か?
 
個人型年金規約で定められる脱退一時金です。脱退一時金を受給できるかどうかの大半が、この個人型における脱退一時金に該当するどうかの判定となります。この要件は以下のすべてを満たすことが必要となります。
<個人型における脱退一時金の要件>
次のA~Fを全て満たすことが要件です。全て満たすことがポイントです。
A~60歳未満であること
B~企業型年金の加入者でないこと
C~個人型年金の加入者になれないこと(=以下の※1に該当する場合)
D~障害給付金の受給権者でないこと
E~通算拠出期間が1ヶ月以上3年以下、または請求日における年金資産の額が50万円以下であること(=以下の※2にり計算された額)
F~企業型年金加入者または個人型年金加入者の資格を喪失した日から2年未満であること
 
※1 「個人型年金の加入者になれない人」とは
① 国民年金の第1号被保険者の内、国民年金保険料の納付免除等の承認を受けている方 (農業者年金の被保険者は確定拠出年金の個人型に重複加入することはできません)
② 国民年金の第3号被保険者
③ 国内非居住者(国民年金の第2号被保険者である方を除く)
④ 企業年金制度の対象者である方
(企業年金制度とは、厚生年金基金、確定給付企業年金、および石炭鉱業年金基金)
⑤ 私立学校教職員共済の対象者の方
⑥ 国家公務員共済組合または地方公務員共済組合の組合員の方
 
※2 「掛金の拠出を受けていた合計月数が36カ月以下」または「脱退一時金を請求した前月末時点での時価資産が50万円以下」で、資格喪失時に未拠出の月額掛金があればその掛金を加算し、未移換の資産(一時金の分割移換額等)があればその金額を加算して、事業主返還等があればその金額を控除した額です。

金額の判定時期は脱退一時金を請求した日の属する月の前月末時点での時価資産で判定されます。なお、他制度からの資産移換がある場合、拠出期間や移換資産ともに加算されるため判定には留意が必要となります。
 
≪個人型の脱退一時金は個人型に資産を移換してから手続き≫
 
個人型における脱退一時金は、次にどのような立場になるかが判定の大きな要素になります。た、個人型における脱退一時金としての取扱いとなるため、自分自身で一旦、個人別管理資産を個人型に移換したのちに請求することとなります。

資産を個人型に移換する手続きは、個人型を取扱いしている運営管理機関経由で行います。なお実際には運用指図者とならずに年金資産を直接払い出しているため、企業型から直接振り込みを受けたかのように思うかもしれませんが、正確には個人型へ移換後、脱退に伴う一時金を支給するという仕組みになっています。
 
また、移換手続きは資格喪失後(資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して)6か月以内に行う必要があります。6か月以内の期間計算や移換しなかった、できなかった場合(自動移換されます)の取扱いやデメリットについては、別途実務教室で紹介していくことにします。
 
≪個人型における脱退一時金の受給要件が緩和≫
 
個人型における脱退一時金(平成26年1月1日施行)の受給要件が緩和されます。具体的には、現行の脱退一時金では「個人型の加入者(掛金をかけれる人)」は対象になりませんでしたが、平成26年1月1日から「個人型の加入者(掛金がかけられる人)」でも、下記①~⑤のすべての要件を満たす場合は脱退一時金の受給が可能となります。
 
①継続個人型年金運用指図者※3であること
②通算拠出期間が3年以下又は資産額が25万円以下であること
③継続個人型年金運用指図者となった日から2年以内であること
④企業型年金の加入者資格喪失時に脱退一時金を受給していないこと
⑤障害給付金を受けていないこと
 
※3 企業型年金加入者の資格喪失後、企業型年金運用指図者又は個人型年金加入者となることなく個人型年金運用指図者となった者で、その申出をした日から起算して2年経過している者を継続個人型運用指図者といいます。
 
少しわかりにくいかもしれませんが、資格喪失した時点で「個人別管理資産の額が25万円以下」または「通算拠出期間が3年以下」の場合、個人型の加入者になれる立場であっても、加入者にならず(掛金をかけず)に【運用指図者(運用のみ行う)】を選択し、その後も掛金をかけずに2年経過したときは、個人型の脱退一時金が受給できるように要件が緩和されたとご理解ください。

また、この場合も受給資格を満たした後、2年以内に手続きをする必要があります。=個人の選択により脱退一時金を請求せず加入者となること、運用指図者を継続することも当然に可能です。
 
なお、施行日は平成26年1月1日となっていますが、平成26年1日1日以前に運用指図者になっている方でも、そのまま2年を経過すれば施行日以降は要件を満たす事になるので、脱退一時金が請求可能となります。
今後、退職(資格喪失)される予定で、資産25万円以下または期間3年以下に該当する人がいる場合は、情報として提供してあげると良いと思います。
 
≪資格喪失される加入者に対して≫
 
脱退一時金の請求は、自分自身が受給できるかを自ら確認し、自ら希望(請求)することが必要です。「誰かが連絡してくれる」「自動的に行われる」ことはなく、請求できる期限も決まっているので【自己管理がとても大切である】こと、該当者に伝えてあげてください。
 
なお、本コメントは、あくまでも当社の私見ですので、詳細や具体的な取扱いについては運営管理機関、国民年金基金連合会にご確認ください。
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