確定拠出年金『実務教室』
確定拠出年金の実務をこなしてしていくうえで、これは…どう対応すれば(考えれば)よいのだろうか…?と思うことは少なくないと思います。
運営管理機関に問い合わせするのも解決策の1つですが、確定拠出年金法を踏まえたその「概要」を理解しておくことも必要ではないでしょうか?
J-401kオフィスのホームページでは、シリーズで確定拠出年金『実務教室』を掲載していきます。
No.1 事業主掛金の拠出中断について
☆加入者が休職等した場合、確定拠出年金はどうする?という問題が発生しました(既に経験されている担当者様もいると思いますが)。この場合の対応は?
まずは法令を確認しましょう。
第19条(事業主掛金及び企業型年金加入者掛金)
事業主は、企業型年金加入者期間の計算の基礎となる各月につき、掛金を拠出する。
上記法令だけをみると、加入者(=多くは厚生年金保険の被保険者であるもの)の、拠出を中断するのは【イレギュラー(難しい)な対応】と判断されます。
ちなみに、法令上では拠出中断について詳細な規定がありません。厚生労働省が提示している「確定拠出年金Q&A」でも、拠出の中断については1項目のみ掲載があるだけです。
<参考>厚生労働省HP 「確定拠出年金Q&A」より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/kakutei/qa.html
【No.71】
Q:「掛金の拠出中断について、認められるケースと認められないケースの基準はあるのか。」
A:「掛金は、原則事業主が毎月拠出するものであるが、給与が支給されておらず、合理的な理由があり、かつ、労使合意のうえ規約に明確に規定されているのであれば中断も可能」
すなわち、これを読み取るに
①給与が支給されていないこと
②合理的な理由があること
③労使合意に基づき規約に規定されていること
の要件を満たせば「拠出を中断できる」と、法令では難しい取扱いと判断されても、その解釈(実務上の取扱い)においてレギュラーな対応となります。
また、実務的にも、レコードキーパーに対し、事業主の責任で、掛金額を「0円」に変更すれば実質的に「掛金を中断」することができます。
~なぜ、このような事象がおきるのか?~
⇒法施行の背景と実務が不整合を起こし、解釈が変化しています。
法施行の背景として企業型確定拠出年金は、厚生年金保険法を基礎として作成され、加入や拠出に関する内容は厚生年金保険法を参考としていると思われます。
一方で、実際に導入を検討してきた企業にとっては、適格年金や厚生年金基金等の企業年金の受け皿的として確定拠出年金を導入するという目的がありました。
厚生年金保険の仕組みを企業主体で実施する企業年金(私的年金)に当てはめようとしたので、当然に「ゆがみ・ひずみ」やいろいろな不整合な点が幾つも表面化してきました。
話は少し逸れますが、当社社長が主任研究員を委嘱されている【NPO確定拠出年金教育協会】が実施した【2012年担当者意識調査】でも、確定拠出年金法改正要望の中に「掛金の毎月拠出」や「後払い不可」という規制を改善して欲しいという企業が(規模に関わらず)多数あるという結果があります。
話を戻しますと、企業が退職金等を計算(支給)する場合、一般的には「自己都合による休職期間は退職金算定の基礎期間に含めず」「給与も無給」としているケースが一般的です。
すなわち、企業においては「給与は支給しない」「退職金等の計算期間にも加えない」と就業規則等で定めていても、確定拠出年金法では「確定拠出年金の掛金は毎月拠出」といった状況です。
そこでこれらの不整合を是正するため、当局では、法が施行された当初は認めて(規定して)いなかった「拠出中断」を、実務上で認めたという経緯があったと聞いています。
これらの背景や経緯をもとに、拠出中断できる根拠(理由)を理解しておくことが重要です。
もう一度、拠出中断が認められるケースを整理すると・・・
「事業主掛金の拠出中断を認める要件は以下の項目をすべて満たしている事」
①休職等の事由が自己の都合によるものであること
②休職等の事由や期間が就業規則等で明記されていること
③(1ヶ月を通じて)給与が無給であること
④労使合意に基づき年金規約に規定して地方厚生(支)局長から承認を得ること
⑤その他、合理的な理由があること
です。
このうち①の【休職等の事由が自己の都合によるもの】はどういった内容かというと、具体的には私傷病休職、育児休業、介護休業、懲戒等に伴う休職(その他企業独自のもので特別に認められたもの等)などが該当するでしょう。
また、③に該当するケースとして産前産後の休暇が一般的に多いと思われますが、産前産後の休暇については、給与は無給ですが、拠出中断は認められません。
なぜなら、この産前産後の休暇は自己の都合による休職ではなく「働いてはいけませんと言う期間」だからです。
もう少し掘り下げてみます。一般的に出産後は、月の途中までが産前産後の休暇で翌日から育児休業となる事が多く、この場合1ヶ月のうち1日でも産前産後休暇が含まれている月は掛金拠出が必要というルールとなっています。また月の途中から復職する場合もその月の掛金は必要となります。
なお、現在は休職等の事由について「自己の都合による」を「会社都合を除く、自己の都合による」に変更(解釈)されているようです。
工場の稼働を一部停止するために一定人員を休職させる場合等は、明らかに会社都合休職になるわけですが、こうした会社都合の場合は拠出中断は不可。これらの会社都合以外なら拠出中断は可能と理解できます。
なお、心の病等の精神的な理由で勤務できない期間は自己都合か会社都合か?という点については、『加入者本人は私傷病休職の手続きを行わないものの、会社サイドから業務の支障等の影響が想定されるため当分休職にした(給与は無給)といった場合、自己都合ではないが会社都合にも該当しないため拠出中断は可能』と、前述の会社都合以外で、かつ上記⑤の合理的な理由に該当させているようです。
以上、拠出中断を検討するにあたり参考にしていただけますと幸いです。なお、本内容は各種文献・情報等を参考に一般的な概要を記載したものですが、当社社長の個人的な見解です。
個別事情における拠出中断の可否については、運営管理機関や担当地方厚生局等に確認されるようお願いいたします。
また上記内容は、NPO法人確定拠出年金教育協会のメルマガにも寄稿しております。